キャリアに悩む前に必ず読む本|森岡 毅【苦しかったときの話をしようか 】

苦しかったときの話をしようか

この記事では、2019年4月に出版された『苦しかったときの話をしようか(ダイヤモンド社)』のご紹介をします。

この本は、USJ復活の立役者である森岡毅さんが、大学生である自分の娘さんに向けて、『自分の将来や仕事のことを考える際の「考え方(フレームワーク)」』を残した本になります。そのため、一貫して「君」という二人称に対して、森岡さんが話しかけていく展開になっています。本を読んでいると、まるで自分自身に教えを説いてくれているような感覚になり、非常に言葉が入ってきやすくなっています。

著者プロフィール

以下森岡毅氏のプロフィールです。著書より抜粋しました。

森岡毅(もりおか つよし)
戦略家・マーケター
高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知出会ったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。

1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。1996年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表を経て2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV時回復させる。2012年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。2017年にUSJを退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、数々のプロジェクトを推進。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集める。

苦しかったときの話をしようか(ダイヤモンド社)

本の目次

  • はじめに 残酷な世界の”希望”とは何か?
  • 第1章 やりたいことがわからなくて悩む君へ
  • 第2章 学校では教えてくれない世界の秘密
  • 第3章 自分の強みをどう知るか
  • 第4章 自分をマーケティングせよ!
  • 第5章 苦しかったときの話をしようか
  • 第6章 自分の”弱さ”とどう向き合うのか
  • おわりに あなたはもっと高く飛べる!

この世界は残酷だ。しかし、それでも君は確かに、自分で選ぶことができる!

「人間は、みんな違って、極めて不平等」

人間は生まれながらにして不平等であることは自明であり、学校では決して教えてくれないと主張しています。

確かに、人間が本当に平等ならば、そもそも基本的人権など要らないですよね。不平等であるがゆえに、社会システムとして、最低限のチャンスは「公平」であるとして社会のバランスを保っているのです。

「欲」の強さは正義

私は、資本主義の本質は人間の「欲」だと考えている。

資本主義は、人間の「欲」をエネルギー源にして、人々を競争させることで社会を発展させる構造を持つ。

資本主義は「欲」を本質とし、「競争」が主な構造だ。

著者は、どんな物事にも本質があると言います。その本質によって、構造が決まり、その構造に従って、複雑な現象が生まれてきて、「本質→構造→現象」の順に上位が下位を拘束している、と解説します。

そして資本主義の本質は「欲」、構造は「競争」だと主張します。

考えてみれば、もっと便利なものが欲しい、もっと便利な暮らしをしたい、という人間の欲がテクノロジーの進化を生み出しているので、非常にしっくりくる考え方ですね。

その資本主義社会においては、大きく分けると2種類の人間しかいないことを知っておかねばならない。自分の24時間を使って稼ぐ人と、他人の24時間を使って稼ぐ人。前者を「サラリーマン」と呼び、後者を「資本家」と呼ぶ。資本主義とは文字通り、後者の資本家のためにルールが作られた社会であることを知っておかねばならない。

人のために働くか、人に自分のために働いてもらうかが「サラリーマン」と「資本家」の違いです。資本家になれ、と言っているわけではなく、資本家の世界を自身の認識(パースペクティブ)の中に持っているかが重要となります。森岡さんのような優秀な方でも、USJに転職する30代半ばまで、そのことには気づけなかったとか。

年収を決める3つのドライバー

著者が解説する年収を決める3つのドライバーをそれぞれ解説します。

職能(スキル)の価値

モノの値段が決まるときと同様に、その人の持っている職能(スキル)に対する需要と供給で年収が決まる。

職能とは営業職能やマーケティング職能、法務職能のような職種ごとの能力(スキル)のことです。

単純作業は、AIやロボットに代替されたり、より賃金の低い労働力に取って代わられます。それを証拠に、データを打ち込むだけの事務職や企業の受付のような仕事はどんどん減ってきていますね。

所属する「業界の構造」

同じ職能でも、産業や業界の構造によって、たくさん給料払える場合とそうでない場合が存在し、添えは各企業や経営者が自由に決められるように見えて、本当は自由にならない。払える人件費にはその業界特有の構造的な限界があるからだ。当然だが儲かっている業界や企業の方が年収は高くなり、そうでない場合は逆になる。

例えば、同じ人事の仕事をするにしても、飲食業界やサービス業界で人事をやるよりも、IT業界やコンサル業界の方が年収が上がるでしょう。

年収を上げるためには、「自分の職能が活きる」かつ「もっと給料が払える他業界へ転職する」というのが正しい選択ということになりますね。

f:id:yuiga-k:20170622133830p:plain
引用元:『週報』北野唯我のブログ

この表は、「転職の思考法」の著者である北野唯我氏のブログで紹介されていた表です。一人当たりのGDPとはシンプルにいうと一人当たりの生産性です。これを見ると、生産性が低い業界に多くの労働者が存在しているということが分かります。

成功度合いによる違い

その人がどれだけ重要で代替不可能な能力を有しているかによって決まる。

ここは割とイメージしやすいのではないでしょうか。同じ職能でも、同じ業界でも成功の度合いで年収は全く違いますよね。

さて、3つのドライバーをまとめると、職能と業界によって会社を選んだ時点で、将来における自分の年収はほぼ自動的に決まってくるということである。

北野唯我さんの「転職の思考法」の中でも言及されていることとほぼ同様です。要は、業界選びと職能選びをまずは慎重に行うことが重要ということになります。

プロ野球選手の平均年収の方がプロサッカー選手の平均年収よりも高いのも、プロ野球の方が1年により多くのイベント(試合)をこなせるという構造を持っているからだ。

就活生や転職を考えている方は、業界を選ぶ時に、しっかり業界の構造を分析することが重要です。

キャリア戦略のフレームワーク

キャリア戦略は文字どおり「戦略」だから、君のキャリアにおける目的があって初めて機能する。

  • まずは、目標を仮設でも良いので立てること
  • 具体的な”こと”から発想するのではなく、”どんな状態”であれば自分はハッピーだろうかという理想の”状態”から発想すると目的が見えやすい

TCLで自分の特徴を理解する

年収を上げたいなら”強み”を伸ばせ!キャリアで成功したいなら”強み”をもっと磨け!全ては強みを認識することから始まるのだ。

Tの人、Cの人、Lの人とは

  • Tの人(Thinking):考える力/戦略性が強みになる
  • Cの人(Communication):伝える力/人と繋がる力が強みになる
  • Lの人(Leadership):変化を起こす力/人を動かす力が強みになる

著者が世の中の人の強み(特徴)を大きく区分けしたものです。自分の強みを伸ばすために、自分がどの分類に当てはまるのかを理解することが重要です。

ナスビは立派なナスビになろう!

強みを活かすということは、ナスビをきゅうりにすることではなく、ナスビが立派なナスビになることだと著者は言っています。

つまり、不得意なことを克服することに時間をかけるのではなく、得意な部分、好きな部分の特徴を磨くために使った方が良いということです。

苦しいのは自分の価値を信じられなくなったとき

人はどういうときに最も苦しいのか?それは、働いていて、死ぬほど忙しいときでは決してない。会社や上司や周囲の評価が厳しいときは、辛いのは間違い無いけれども、それも最も苦しいときではない。人が最も苦しいのは、自己評価が極端に低くなっているとき。自分自身で自分の存在価値を疑う状況に追い込まれたときだ。

働いていれば、うまくいかないことも必ずあるでしょう。そのせいで、周囲の人の評価が低くなったり、評価が低くなっていることに対して、辛い思いをすることがあるかと思います。

一見、仕事がうまくいかない状態が一番辛い状態と思ってしまいますが、結局、最も辛いのは、自分自身が自分の存在価値を疑ってしまうことなのです。

著者がすごいのは、自分自身の心や感情の部分をしっかり分析し、何に対して自分がストレスを感じたり、辛いと感じているのかを認識しているところだと思います。

仕事が辛いと感じるときは、辛いと感じているの根元がなんなのかを理解して向き合うことが解決の一歩となると理解しました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。この本は、これから社会に出て行く人たち(特に就活を控えている方)向けに書かれている本ですが、社会人、特に20代〜30代前半の人にとっても、キャリアの指南書になります。

20代や30代前半はがむしゃらに仕事を頑張って結果を出しつつも、本当に今のままでいいのか、など悩んでしまうこともあると思います。そんな時は、自分のキャリア戦略を見直す時期なのかもしれません。

キャリアに悩んでしまう前に、ぜひ読んでおきたい本でしょう。

森岡毅さんの他の著書

著者は、他にも戦略論やマーケティングについての本を書いています。本著と同様に非常にロジカルでありつつ、読みやすい著書が多いため、興味のある方は是非読んでみてください。

  • USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?
    • アイデア開発のノウハウをUSJのV字回復の興奮とともに学びたい人へ
  • USJを劇的に変えたたった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門
    • 世界一わかりやすくマーケティングの基本を学びたい人へ
  • 確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力
    • 戦略を立てる真髄を学びたい人へ
  • マーケティングとは「組織革命」である 個人も会社も劇的に成長する森岡メソッド
    • 人を動かし、組織を変える革新を学びたい人へ